著者プロフィール

著者近影 みずき・ゆう
作家、音楽家、朗読演出家。
1957年生まれ。東京世田谷在住。
ジャズバンド、ピアノ教師、ラジオ番組の構成作家&パーソナリティー、娯楽小説作家、作曲家、演出家など、幅広いキャリアを持つ。
2002年より、アイ文庫オーディオブックのための文芸朗読シリーズのプロデューサーとして、オーディオブックの制作の傍ら、現代朗読協会の元となる若手朗読者の育成をスタート。朗読と音楽とのコラボによる独自のメソッドに基づいた演出は、カルメンマキ、鈴木重子などとも共演、高い評価を得ている。
世田谷区を中心に「朗読出前授業」などの活動のほか、各地で現代朗読ワークショップ、朗読者養成講座、朗読公演活動、音読や読み聞かせの指導を行っている。
著書に「水城式ジャズの聴き方」「小説工房」「小説工房 Vol.2」など。

書籍「音読・群読エチュード」

水城雄・著「音読・群読エチュード」

 2011年3月末、学校教員向けの教材や指導書などを出している出版社(株)ラピュータから、水城雄「音読・群読エチュード」が出版されました。
印刷所が東北関東大震災の被害を受けたものの、この状況下で配本が数日遅れただけで無事本を届けていただき、関係者の皆さまに心から御礼申し上げます。
この本は、小学生向けの指導書という体裁をとっていますが、エチュードの対象は年齢を問いません。老若男女誰でも、同じエチュードを楽しむことができます。
「朗読は身体表現」――心と体はつながっています。このような未曽有の事態に際して、誰もがすぐに使える、傷ついた心を癒すツールとして、朗読(音読)が活用されることを願っています。

 

大震災に寄せて、著者の言葉

東北関東大震災によって被災したのは現地の方ばかりではありません。その報に接し、心を傷めているすべての人も、同時に被災しているともいえます。実際、たえまなく伝わってくる災害情報のなかで心身の調子をくずしたり、仕事や学校に行けなくなっている人も多いのです。
子どもたちもまた、そういう大人たちの状態からもろに影響を受けています。
現代朗読協会では災害発生直後から「羽根木の家」を開放し、音読を使った人々のメンタルケアをおこなっています。その過程で臨床心理士など専門家とも組み、この音読エチュードが人々のメンタルケアにとても有効であることも確認しています。
いま、大人以上にケアが必要な子どもたちがたくさんいます。本書には子どもたちのケアに役立つエチュードがたくさんおさめられています。短い時間を利用して、子どもたちをケアし、元気を取り戻してもらうことができるでしょう。
ぜひともこの本を活用していただきたいと願っています。

著者・水城 雄

はじめに 表現と身体性――音読がひきだすリアルな“学び”

 この本はつぎの三つの柱を考えにいれて書かれています。

一 次世代をになう子どもたちにいまなにが必要かを見据えること
二 現場の教師・指導者の声、悩みを真摯に受けとめていること
三 すぐに実行できて効果を確認できる具体的なエチュードを豊富に用意すること

声を出す。ことばを発して本を読む。これはふたつのことを同時に体験します。
ひとつめは「読書」という体験。文字を読み、理解し、そのことを想像して思いをはせることは、一種の体験です。そのとき身体が動いていなくても、本のなかの登場人物の動きにあわせて読み手も運動神経が刺激されています。疑似体験ともいいますが、本に書かれていることをリアルに想像することは、読書体験ともいうべき一種の「運動」です。
もうひとつは、実際に声を出して読みあげる、という、まさに「運動」そのものです。
言葉を発するとき、人はじつにさまざまな運動能力を使います。筋肉と骨格をコントロールして「発語」します。筋肉に命令をあたえるのは運動神経です。筋肉と骨格が正しく運動しているかどうかを確認するのは感覚神経です。視覚も聴覚も使います。
発声には呼吸がともないます。呼気によって声帯を震動させ、声を出します。呼吸のコントロールも筋肉と骨格に関係があります。また、姿勢の保持、変化も必要です。つまり、声を出して本を読むという行為は、運動そのものなのです。
これが読書体験とむすびついたとき、子どもにはとても大切な「リアルな体験」となって身体とこころをはぐくむ大きな力となります。
このところさまざまなところで「音読のすすめ」がいわれるのは、そのせいです。情報化・デジタル化・国際化といった社会の大きな変化に耐えうる、リアルな体験を持った力強い子どもをはぐくんでいきたいと思っています。
現代朗読協会は公演や音読指導のためにさまざまな地域の学校やコミュニティに出かけていますが、教職員や保護者の方たちのご意見のなかでもっとも印象にのこったのは、区や文科省の方針として「音読の重要性」を打ちだしてきても、実際の現場で具体的にどう指導していいのか、あるいは指導してはいるがそれが正しいのかどうか自信が持てない、といった意見でした。
そのような声に応えることができないか、と思い、書かれたのが、この本です。

現代朗読協会では技術的な研究もおこないますが、それ以上により本質的な「声を出して表現する/コミュニケートする」という意味と原理を深くかんがえつづけています。そのような研究の場から、多くの実践的なエチュードが生まれてきました。
このエチュードを子どもたちの音読指導にそのまま使えないか、という発想で生まれたのが、この本です。
授業の合間やほんのちょっとした隙間時間にすぐに実践できる、みじかくて具体的なエチュードをたくさん紹介しています。人数が多くても少なくてもやれます。なかにはひとりでもやれるものもあります。
ひとつひとつのエチュードがどのようなねらいのもと、どのように実践すればいいのか、具体的に書かれています。
どの順番で実践してもいいようにもなっています。
便宜上、低学年向けと高学年向けに分けてありますが、低学年生に高学年向けのエチュードを実践してはいけない、ということはありません。その逆のこともいえます。
年齢が低いからといってむずかしい文章を音読できないわけではありません。むしろむずかしい文章のほうが楽しんでやれる傾向すらあります。そのためにすべての漢字にはルビをふってあります。
また高学年の生徒にあらためて平易な文章をしっかりと音読させてみることも、大変効果があることです。指導者側の思いこみを捨て,いろいろな角度から子どもたちに挑戦させてみることが大事です。
この本があなたと子どもたちの関係性の向上にいくらかでも役に立てることを願っています。

「音読・群読エチュード」・「はじめに」より